トランスフォーマー・キスぷれ

玩具製品・オートルーパーxあたりに付属のドラマCDレビュー。


 今回のドラマCDは、従来と同じく新録音ドラマとラジオドラマ採録(21〜30話)、主演声優のメッセージで構成される。

 今回の新録ドラマ「私と、あなたと、回る地球」は、ラジオドラマ第38回から直接続くエピソードで、漫画版を含む一連のストーリーの完結編となる。収録時間は20分程度。尚、この商品の発売週のラジオドラマ第38回からは新展開がスタートし、当サイトでは、ドラマCD収録の完結編までを「第1期シリーズ」、ラジオドラマ第38回以降の新シリーズを「第2期シリーズ」と表記している。

 出演声優は、この時点でのキスぷれドラマ最多の5名で、当梨役の明坂聡美を中心に、メリッサ役のりりあん、シャオシャオ役の鹿野優以のレギュラー陣に加え、「フィギュアコレクション1あたり」に付属のドラマCDから引き続きオートルーパー役として平井哲二、今回がドラマ初登場となる天桜司令官役として柳沢三千代が登場。


●『私と、あなたと、回る地球』エピソード概要

 当梨、メリッサ、シャオシャオ、コンボイ、ホットロディマスの5人は、E.D.C.東京の地下1万メートルにあるジェニタルシステムの中枢に続く、螺旋バジャイナの最深部に到達した。かつてガルバトロンが東京に墜落した際の爆心地であるここには、首の無いガルバトロンのボディが保管されている。いぶかしがる当梨に、すでに全ての状況を把握している様子のメリッサ、シャオシャオが説明する。「あの人」にはこれがどうしても必要だったのだと。そして、「あの人」は、ガルバトロンをレギオンから守る為に、その細胞から人造の超ロボット生命体であるオートルーパーを作ったのだと。
 その時、突如構内のシャッターが閉まり、当梨はメリッサらと分断され一人きりになってしまった…

 ひとり取り残された当梨に話し掛ける声がする。オートルーパー子04だ。だが、なにか様子がおかしい。当梨を拘束し、キス融合を強制しようとするオートルーパーが言う、機は熟した、2人が完全な融合に成功すれば当梨の存在は消える、融合に失敗すれば当梨は死ぬと。当梨は、それが以前カユがオートルーパーと融合し暴走した理由でもあったのだと悟る。自らの死という選択枝を前にして、当梨はむしろ死ねば天国の両親の元へ行けるのではないかと口にした…。
 どこからともなく、天桜司令官の声がし当梨に言う。当梨に死なれては困ると。天桜の出現に安堵する当梨だったが、天桜は当梨を助ける様子は無く、全て予定通りだという。全ては天桜の計画だったのだ。本来は、シャオシャオを使う筈だったが、より純度の高いキスプレイヤーであった当梨がこの計画の中核を成す被験者となる。そもそも、当梨の両親が殺されたのもE.D.C.入隊への勧誘を拒否した為だったのだ。
 天桜は、この凶行は全て、ガルバトロン墜落の爆心地に居て死亡した天桜の娘、シズクの為だという。飛散したガルバトロンの細胞が無機物と融合して誕生したのがレギオンであり、有機物である人間と融合して特殊能力が開花したのがキスプレイヤーなのであると。その脅威的な生命力を持つガルバトロンの細胞を利用して死んだシズクに永遠の命を与えるのが天桜の目的だったのだ。その為に、究極の融合体を生み出そうと融合を強制しようとする天桜だったが…

 トリサイリウム鋼製装甲シャッターを破り、メリッサ、シャオシャオと融合したコンボイとロディマスが進入してきた。だが、ガルバトロン本体に近付きすぎた彼らは、ガルバトロン細胞を制御できず破壊衝動のままに同士討ちをはじめた。
 天桜の計画は後わずかで完成する。究極の融合体へのプロセスに抵抗する当梨は、その意識の中で過去を思い出していた。幼い頃にいじめられている自分、いじめた子が悪いんだ。助けてくれなかった友達が、先生が、こんな自分に産んだ両親が、みんな悪いんだ。そんな当梨の心の声を反復するオートルーパー。その声に当梨は気付いた。両親や友達が悪いんじゃない。みんなだって、本当は見守ってくれていた。そうだ自分が自ら手を伸ばそうとしなかっただけなのだ。
 自ら心の扉を開いた当梨は、オートルーパーに向い、諦めない限り終りは訪れないと手を伸ばす。そしてオートルーパーも心を開いた当梨の求めに答えた。キス融合する2人。
 それに共鳴するかのように、ガルバトロンの首の無い本体が動き始める。暴走したオートルーパーとレギオンの群れが次々にガルバトロンに融合し完全体に戻ろうとしていた。
 計画を超えて暴走を始めるガルバトロンとその細胞達にもはや成す術も無い天桜だが、ガルバトロンのボディはシズクの為に必要だと必死で抵抗する。その天桜の前に黒髪の少女が現われた。レギオンと行動を共にしていたその少女は、シズクだった。レギオンがここにやってきたのは天桜に会う為だったに違い無い。再会に泣き咽ぶ天桜の声は瓦礫の崩れる音と共に消えていった…。

 その頃、ホットロディマスは、アンチエレクトロンフィールド発生器の破壊に成功。破壊衝動をもたらすガルバトロン細胞との戦いに打ち勝ち、全てのガルバトロン細胞とシャオシャオを分離し元の姿に戻っていた。
 オートルーパーと融合した当梨は、最後の役目を果たす為に進む。全てのレギオンと全てのオートルーパーを率いて。ガルバトロンと全ての細胞をひとつにし、本来あるべきだった場所へ放逐する為に宇宙へ飛び出すのだ。
 宇宙へと進む、ガルバトロンには全てのオートルーパーとレギオン、そして当梨が融合した。それを追って、コンボイが追いすがる。当梨の身代わりになりガルバトロンと融合しようとしているのだ。しかし、オートルーパーは自らが彼らに代わり任務を果たすという。自分も一緒に行くという当梨に、オートルーパーは新しい夢に向えと諭す。

 当梨はメリッサと共にコンボイの腕の中で地球の軌道を回っていた。コンボイは全てのガルバトロン細胞を分離し、もはや動かぬ屍となった。ガルバトロンは、元の軌道に乗って宇宙の彼方へ飛んで行った。レギオンもオートルーパーももう居ない。
 美しい大きい地球を見下ろす当梨は、自分の回りにこんなにも沢山の人が居たのだとその心に感じていた。


■解説

 本作は、現在までのラジオドラマおよび漫画版から連なるストーリーの完結編と位置付けられており、描写が不充分な部分や、繋がりが不自然な部分も散見されるものの、これまでの謎や伏線の多くに答えが示された。
 全ての始まりとなったガルバトロンの墜落に関しては、すでに玩具解説書等で語られていたが、シリーズ開始当初からの謎として言葉だけが繰り返されてきたE.D.C.の陰謀に関して、その黒幕と共に詳細に述べられている。

 漫画版が初出となる天桜司令官は、オートルーパー隊の司令官という立場で登場していたが、全ては彼女がガルバトロンの墜落によって死亡した娘であるシズクを取り戻したいという一念によって計画した陰謀である事が明かされる。天桜は、E.D.C.東京の地下深くに隠された秘密施設、ジェニタルシステムで、ガルバトロンの細胞と高純度のキスプレイヤーによって完成する究極の融合体を用いて娘の再生を計る。具体的な描写が無い為、シズクの復活がどのようなプロセスにより行なわれる予定だったのかは不明だが、その舞台となった「ジェニタルシステム」は、その名が示す通り"Genital"(生殖器)であり、地上からこの中枢に繋がるルート、「螺旋バジャイナ」は、"Vagina"(膣)の英語発音からと思われ、このシステム自体が巨大な生殖器を模ったプラントである事が伺える。また、ドラマ中、天桜の計画の最終段階として融合を強制されようとする当梨が、水の中で苦しむようなSEが入るがこれは、子宮の羊水をイメージしたものであろう事は容易に想像できる。この母胎を思わせるプラントから、天桜は新たな命を持ったシズクを再び産み出そうとしていたのだろう。これまでのドラマで描写された人体実験とは、計画の目的である究極の融合体を生み出すプロセスを最適化する為の試行であり、当梨のセリフからは、ラジオドラマ第36回で描かれた、カユの暴走もこうした実験の結果であった事が示唆されている。

 一方、ラジオドラマ第32回から唐突に登場した、レギオンと共に現われる謎の黒髪の少女は、そのシズク自身であった事が明かされる。ガルバトロン墜落の爆心地で死亡したとされるシズクは、ガルバトロン細胞と渾然一体となって、レギオンそのものとなっていたのだろう。レギオンは、E.D.C.本部にあるガルバトロンのボディと再び一体になる為に、本能的に本部へ向って進軍していたようだが、ここにシズクの存在が加わる事で、また別の理由もあったと解釈できる。シズクは母である天桜に会う為にE.D.C.本部を目指していたとも考えられ、その目的は最終的には果たされた。ラジオドラマ第37回では、メリッサとシャオシャオがこの戦いの真の目的を黒髪の少女に手引きされたかのような描写があり、シズクはレギオンとしての本能とは別に、独自に外部と意思を疎通できた事が伺える。つまり、これが幽霊のような形態となって現われていたのだろう。また、これまでのドラマの疑問点だった、コンボイが何故レギオンの大群を統率する事ができたのかに関する説明はされていないが、これらを考慮すれば、彼女の力添えがあっての事と考えるのが道理だ。

・当梨とオートルーパー

 当梨は、自分が傷つきたくないが為に他者を受け入れられず距離を置いているが、何か事が起きた時には、誰も自分を相手にしてくれなかったと他者に責任を転嫁するという性格の持ち主であると、過去のドラマ中や設定でも語られているが、本作では、その精神的な弱さに打ち勝ち、他者を受け入れ自ら手を差し伸べる所まで成長している。もっとも、その成長の過程自体は、オートルーパーとの心の声のやりとりという形で簡潔に表現され、性急な印象はある。
 一方、オートルーパーは、本来、量産型人造TFとして全ての個体が同一の人格を持っていたが、個別のパートナーとの交流や融合で異なる個性を獲得、あるいは進化するというのはシリーズ初期から設定として語られていた。本ドラマの前半では、自らを作り出した天桜の計画に沿った言動を取っており、実際に当梨を拘束し計画通りの融合を実行しようとしていたが、先の心の声のやりとりを介した当梨の成長を境に、当梨に対して協力的な姿勢に転じている。過去のドラマ等でもオートルーパーが独自の個性を獲得しているかのように見られる描写はあったが、今回のそれは、本来、創造者の意に従うようにプログラムされたであろう彼が、それをも超越して完全に独立した彼独自の個性を獲得した瞬間だったのかもしれない。

・ガルバトロン細胞

 ガルバトロンの細胞は、その誕生に関与したユニクロンの細胞を受け継ぎ、他の物体と融合して新たな生命体として活動したり(レギオン)、特殊な能力を発揮させたり(キスプレイヤー)といった力を持つとされている。本来のG1アニメシリーズではこういった細胞の能力は描写されておらず、キスぷれの独自設定だ。これらの能力は、G1〜キスぷれ世界とはパラレルワールドになる、アニメ「マイクロン伝説」および「スーパーリンク」でのユニクロンの描写に強く影響を受けているように思われる。

 ドラマの終盤、全ての細胞を再びそのボディに戻し完全体となったガルバトロンを宇宙に放逐する件は、どのような移動手段を用いて宇宙へ飛び出したのかは全く語られていないが、盛大な噴射音のSEが入っている事から、ロケットか宇宙船の類を使用したものと考えられる。
 ガルバトロンを宇宙に放逐する為には、全ての細胞が本体に戻っている事が絶対必要条件だと考えられるが、劇中では、ガルバトロンを追って、ガルバトロン細胞が無ければ死に至る筈のコンボイが後から追跡している。という事は、まだ地上にガルバトロン細胞が残っているにも関わらず出発してしまったという事になるが…。それとも最初から宇宙で合流するつもりだったのだろうか。あるいはコンボイのみ特例として、そのまま残されたのか。ちなみに、コンボイがどのような手段でガルバトロンを追跡したのかも描写されていないが、宇宙船を追跡するコンボイと言えば、G1アニメ第3話で、サイバトロン戦士ランボルのロケットブースターを取り上げてデストロンの宇宙船を追撃するシーンを思い出す。きっと今回もそういった装備を使用したに違いない(根拠は無い)。
 ともかく、地上のガルバトロン細胞は、全て本体に戻り、ガルバトロンは再び元の軌道に乗って飛んでいったという結末になっている。これは、アニメ「トランスフォーマー2010」の冒頭で惑星スラルの溶岩の中で眠りについていたガルバトロンの描写へと繋げる為の措置だろう。

 かくして、全てのガルバトロン細胞が放逐されたキスぷれ世界では、コンボイは再び死の床につき、レギオン、オートルーパーは存在せず、キスプレイヤーも普通の女の子に戻ったのであった。

 ラジオドラマ第38回からは、この完結編の後の世界を舞台に、過去のトランスフォーマー各作品の時代をタイムトラベルする新シリーズが展開されている。今回で、キスプレイヤー達の能力は失われてしまったが、新シリーズではこれとは別のキス能力が開花し、新たなキスにまつわるエピソードが綴られている。

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